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進化の大ギャラリー(713asahi)

生命の力強さ伝える「方舟」
遺産 1.jpg
 フランス
所在地:パリ市5区、植物園内
完成年:1994年(改装)
建築家:ポール・シュメトフ、ボルハ・ユイドプロ
松葉一清(武蔵野美術大教授)

 ノアの方舟、それが街の片隅で眠っている−そんな話をパリのホテルにあった雑誌で目にとめ、矢も盾もたまらなくなり、確かめに出かけたことがあった。
 国立自然史博物館の大ギャラリーに、ゾウをはじめとする動物の剥製やクジラの骨格標本などがすし詰めという。誌面にはモノクロームのおどろおどろしげな写真が添えて満った。確かに多種類の動物がひしめき合う横は、来るべき洪水に備え、一腹の船に彼らが乗り合わせた風情だった。
 博物館の位置する、やはり再整備途上の植物園に出向き、なにかの施設の閉じられた扉ごしの薄晴い空間に、骨格標本らしきものをのぞいた記憶が残る。折から1989年のフランス革命200年祭を前に、ミッテラン大統領の主導によってルーブル美術館をはじめ国際級の文化施設の更新が進むなか、ここがどう様変わりするのか、想像をたくましくした。
 それから相応な時間がかかり、94年に「進化の大ギャラリー」がお目見えした。ダイナミックな展示は期待以上で、博物館展示の新時代を予感させた。
 もとは1889年完成の鉄骨の大空間(ジュール・アンドレ設計)のなか、方舟の乗船者たちはひとつの方向を向いて動感豊かに列をなしていた。正面から入館すると、彼らがこちらに突進して来るかのよう。動きのある展示は「進化」という言葉に抱く生命の力強さを実感させる。
 来館者は、突進する彼らのそばまで近づき、肌合いも間近で確かめられる。巨大な展示スペースは間口が25㍍、奥行きは55㍍もある。頭上には、博覧会の時代だった19世紀末が生み出した巨大なガラス屋根が張られている。現代の展示はそこからの自然光と、色調が時間を追って変化する人工照明をアレンジし、動物の突進を一段と劇的に見え
るように演出する。
 博物館の起源は、ルイ13世時代、17世紀の王立薬用植物園。フランス革命までの時期、半世紀も代表をつとめた高名な博物学者ビュフォンが「王立植物園」にして、革命期に現在の博物館に改組された。19世紀末の大ギャラリーは、世界各地の植民地などから集めた物珍しい自然標本を市民に展示する、もともとが「見せ物小屋」だった。110万点を超える貴重な標本の収蔵分類のために、施設が閉じられたのは1965年。改装再開場に30年近くを要したことになる。
 新たな船出により、方舟に乗船できるわたしたちは幸せ者だ。
遺産2.jpg
◆パリ再興計画の一環◆
 フランス国立自然史博物館「進化の大ギャラリー」は、ミッテラン大統領が1981年の就任時に打ち上げた、大規模文化施設によるパリ再興計画「グラン・プロジェ」に後から組み入れられた。大蔵省と国立図書館の都心からの移転とともに、開発が遅れ気味だったパリの東部地区を活性化する役割も期待された。
 「進化の大ギャラリー」改装の建築家はシュメトフとユイドプロ。この2人はセーヌ川対岸に位置する新しい大蔵省の建物も手がけた。シュメトフは東京・代官山の「A.P.C.ビル」の設計者でもある。
 ●「国立自然史博物館」の公式サイト(英語あり、WWW.mnhn.rr)に、「進化の大ギャラリー」の視界360度のパノラマ写真、改装の経緯、博物館の現在の展示、収蔵物の解説をはじめ、隣接する植物園の地図なども収録さ
れている。


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コメント 3

mistletoe

ニコラ・フィリベール監督の
『動物、動物たち』
というドキュメンタリー映画でこの博物館改装の様子を観ました。
フランス人のセンス、仕事っぷり、会話…
修復作業のすべてに色々な意味で驚かされました。

360度のパノラマ写真!見に行ってきます。

by mistletoe (2008-07-15 18:16) 

cabinets

「動物、動物たち」観たかったのですが、
どうしても都合が付けられず残念でした。
ひょっとしてmistletoeさん、おフランスにも行かれるのか?
羨ましーい!!

by cabinets (2008-07-17 11:06) 

mistletoe

度々失礼致します…
おフランスも、剥製屋さんのDeyrolleに行きたいので
もしかしたら行くかもしれません…
フラゴナール博物館にも行きたいですし…
元々フランスの方がよく行っていたお国なのですが。。。
ただ、現地の友人達からは原油代が落ち着いてからにしろ…と
言われており、いつ落ち着くのやら…

雑誌BRUTUSの博物館特集に画伯とワタシのお気に入りの
鳥のビオソフィアのあの部屋が見開きで掲載されておりました!
by mistletoe (2008-07-17 15:59) 

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